儚くも美しい春の花々
スプリング・エフェメラル。この言葉をご存知の方は、結構山歩きが好きな方々ではないでしょうか。そのまま直訳すると、春の儚(はかな)いもの、という意味合いですが、ちょっと気の利いた言い方をして、「春の妖精」などと呼ばれたりもします。
名前が表すとおり、春の限られた時期にしか見られない何とも儚い植物群を指します。スプリング・エフェメラルは、早春の落葉樹林の中で、まだ樹木の葉が芽吹く前に一気に葉を成長させ、花を咲かせます。夏場には葉がうっそうと生い茂って暗くなる落葉樹林ですが、早春のこの時期であれば明るい日差しが差し込んでおりますから、樹木が葉を付ける前に一気に成長してしまうわけですね。
スプリング・エフェメラルの代表種といえば、やはりカタクリでしょうか。いわきでは鮫川水系の山に自生しているようですね。先日行った内郷の高野花見山でも多くのカタクリが花を咲かせておりました。カタクリは、この辺りでは3月になると葉を出し始め、3月下旬から4月上旬にかけて花を咲かせます。そして頭上が完全に新緑で覆われる5月ごろになると早くも地上部分が枯れ始め、夏が来る前に地下で再び長い眠りに付きます。わずか2か月ほどの間に一気に光合成をして1年分の栄養を蓄えてしまうわけですね。何ともすごいものです。
先日、棚倉へ行ったときにたくさん見かけたショウジョウバカマもスプリング・エフェメラルの一種です。ちょっと例外的で常緑性の葉を持ちますが、やはりこの時期他の植物に先駆けて花を咲かせます。ショウジョウバカマは高山から低地まで幅広く見られるようですが、平の周辺ではあまり見かけないような気がします。
このほかイチリンソウやニリンソウの仲間なども山歩きでよく見かけるスプリング・エフェメラルです。
さて、さきほど紹介したカタクリですが、このカタクリの蜜が大好きな蝶がおります。アゲハチョウ科のギフチョウです。カタクリの花に集まるだけあって、ギフチョウが見られるのは春先のわずかな時期だけです。春の到来を告げる短命の儚いチョウ。ということで、こちらも春の妖精、スプリング・エフェメラルと呼ばれたりします。
ギフチョウとその分布図
しかし、残念ながら、いわきにはギフチョウはいません。分布域を見るとどちらかといえば日本海側に多くいるようです。今話題の北陸新幹線に乗っていけば、ばっちり見られそうな雰囲気です。でも、近くなったとはいえ、いわきからだとまだまだ遠いんですよねえ(^^;)。近場でいくと、ギフチョウなら新潟~山形県、一回り小さいヒメギフチョウならば山形県~宮城県が分布域に入っております。ちなみに両者が住み分けをしている境界線はリュードルフィアラインと呼ばれており、この境界線上では両方の蝶が見られる場所もあるそうで、蝶の愛好家の間では有名な場所がいくつもあるそうです。
カタクリは、この近辺では4月上旬までが見ごろですが、三和の方ではもう少し遅くまで見られます。ヒメギフチョウを見るには、山形県の場合、4月中旬から下旬頃がベストな時期のようです。この季節、桜もいいですが、儚い春の妖精、スプリング・エフェメラルを探してみるのも楽しいものです。