合成ダイヤがいよいよ商品化されます

熊谷質店

ダイヤ市場への影響やいかに

ダイヤモンドは人工の輝き (2018/9/5)

「ダイヤモンドは永遠の輝き(A diamond is forever)」。あまりにも有名なこのフレーズは、ダイヤモンドの採掘・加工・販売までを手掛ける世界最大のダイヤシンジケート、デビアス社が今から70年ほど前に作り出したキャッチコピーです。それまで貴族にしか縁のなかったダイヤモンドを広く一般の人に普及させ、その宝石的価値を不動のものにした見事なフレーズですよね。

そのデビアス社が今月から合成ダイヤモンドの販売を始めます。天然ダイヤの多くを独占的に発掘しているデビアス社が方針を180°転換させて、対極にあると思われる合成ダイヤの世界に足を踏み入れる理由は一体どこにあるのでしょうか。

天然ダイヤと合成ダイヤ

そもそも天然、合成と区別されているわけですが、具体的に何が違うのでしょうか。合成ダイヤは偽物なのでしょうか。結論からいってどちらも本物のダイヤです。キュービック・ジルコニアやモアッサナイトなど従来から出回っていたものは、ダイヤと特性が近いだけのまったく別の種類の鉱物です。なので明らかにダイヤの偽物といえるわけですが、合成ダイヤは間違いなく本物のダイヤであり、組成や特性もまったく変わりありません。作られた場所が違うだけです。

天然のダイヤは地中の奥深いところ、高温・高圧の環境の中で長い年月をかけてその結晶が作られます。一方の合成ダイヤの場合は、工場内で短期間で結晶を製造することができす。合成ダイヤもかつては天然の高温・高圧環境を再現した大がかりな装置を用いて作られておりました(HPHT法)が、この方法では宝石品質のダイヤを作り出すのにコストが掛かりすぎるため、採算性を考えると市場に出ることはほとんどありませんでした。しかし、近年では半導体素子の製造工程などに用いられてきた技術を応用した新しい方法(CVD法)が進歩しており、コストをそれほどかけずに高品質のダイヤが短期間で作り出せるようになっております。そのため一気に市場性が出るようになってきました。

この合成ダイヤ、当然ながら見た目も天然ダイヤと変わりありません。なので、専門家が顕微鏡で拡大しても、天然であることを決定づけるような内包物がない限りは判別ができません。これを正確に判別するためには、大手の鑑別機関にしか置いていないような高度な検査機械に頼るしかありません。ただし、ある種の特性を調べることで簡易判別ができる機械はあり、当店でも今年からこの機械を導入しております。この機械では、無色のダイヤを、合成の可能性があるダイヤとそうでないものとに粗分けすることができます。なので、大きなダイヤや天然特徴のないダイヤに対してはこちらの機械で検査させていただいくことがあります。

SCREEN-I
天然/合成ダイヤ簡易判別器

デビアス社の狙い

デビアス社はダイヤモンド鉱山を数多く持っており、生産者の立場からしても合成ダイヤを商品化することなどありえないと正直思っていました。しかし、技術の進歩により、放っておいても合成ダイヤは市場にどんどん流入してくるでしょう。合成ダイヤが無秩序に市場に流入してくるようになると、天然ダイヤの価値も落ち、価格にも当然影響が出てくると思います。この市場流入をコントロールするには自らもその製造に関与していく必要があるとデビアス社は考えたのではないでしょうか。そして、天然ダイヤと合成ダイヤの価値観の違いを鮮明に打ち出し、かつてのような見事なキャッチフレーズをもって、両者の棲み分けを確立させ、その両方でリーダーシップを取りながら、ダイヤモンド市場を従来通りコントロールしていこうとしているのではないでしょうか。

デビアス社が今月発売予定のダイヤの価格は、1キャラットのもので800ドル前後といいますから、日本円にしておよそ9万円程度です。これは天然ダイヤの1/10ほどの価格ですから驚きです。このダイヤには肉眼では見えない小さなロゴが入るため天然ダイヤとの区別は簡単にできるといいますが、果たしてどのようなものになるのでしょうか。現物を確認次第、報告したいと思います。

これからのダイヤ市場

合成ダイヤが一般化されることにより、天然ダイヤの市場にも影響が出ることは間違いないと思います。高品質のダイヤが1/10の価格で手に入るわけですから、品質の悪い天然ダイヤはあまり売れなくなるかもしれません。それどころか、ダイヤの品質に関する従来の価値観すら変わってくるかもしれません。いずれにしてもこれからダイヤ市場は、市場が形成されて以来最大の転換期を迎えることになるでしょう。「永遠の輝き」といわれた天然のダイヤモンドが、その輝きを失わず、未来に向けてその価値を失わないような新たなダイヤ市場が形成されることを期待します。