貴金属判別には比重を計ることが重要です

熊谷質店

今回は比重についてのお話です

第9回 比重

「これは、軽いから金ではないんじゃないかな?」

金、プラチナ製品を判別するとき、こういう言葉がよく出てきます。金は重い、メッキの偽物は軽い、これがもっとも昔から行われている簡単な金の判別方法です。その元となっているのが「比重(ひじゅう)」という数値です。今回は、この比重についてのお話です。

比重

比重とは、水の重さを1としたときの、その物体の同一体積での重さをあらわした数値です。比重は同じ種類のものであれば形状が変わっても同じ数値です。例えば、純金の比重は指輪でもネックレスでも19.3、銀の比重は10.5となります(実際には製造の仕方等で若干数値が変わります)。

金属の種類比重値
プラチナ(Pt1000) 21.3
プラチナ(Pt900) 18.6~20.0
プラチナ(Pt850) 17.5~19.3
金(K24) 19.3
金(K18) 14.8~16.1
銀(SV1000) 10.5
8.9
7.8
アルミ 2.7

仮に1cm角のサイコロを考えてみます。このサイコロが水で出来ていれば1ccですから1gです。もしこれが銅に金メッキをかけたもので出来ていれば8.8gですし、本物の純金であれば19.3gにもなるわけです。金製品は見た目が同じであれば、他の金属で作った場合よりも、はるかに重い重量となってきます。「金が重い」という考えはここから来ているわけです。

比重の計り方

比重が正確に測定できれば、金、プラチナ製品の判別に大きな力を発揮します。では、比重を計るにはどうすればよいのでしょうか。都合がいいことに比重というものは、水の重さを基準にしていて、水は1cm3(1cm角のサイコロ)の場合で1gです。ですから、

 比重=重さ÷体積

で比重は出ます。後は体積を測ることができればよいわけです。ここでアルキメデスの定理というものを使います。

アルキメデスの定理では、物体が水中にあるときには浮力が働き、その力は物体が押しのけた水の重量と釣り合うというようなことが説明されております。押しのけた水の重量というのは、言い換えればその物体が水で出来ていたと考えた場合の重量であり、水の場合1cm3の体積で重さが1gですから、そのまま体積に置き換えることができます。また、浮力とは水中でどれだか物が軽くなったかということですから、

 比重=重さ÷体積=重さ÷浮力
   =空気中での重さ÷(空気中での重さ-水中での重さ)

ということになります。 要は水中での重さが分かれば、比重が計算できることになるわけです。

比重計

水中での物の重さを簡単に計ることができる計量器があります。これが比重計と呼ばれるものです。実際に50gのK18のネックレスを比重計で計ってみました。

比重計1 比重計2
比重計

空気中での重さは50.24g、水中での重さが46.94gですから、

 比重=50.24÷(50.24-46.94)=15.22

となり、K18の範囲内ですから、比重的には間違いないといえます。最近の比重計はこの計算を自動的に行い、結果を金の純度で(K18とか)直接表示するようになっているものが主流です。

比重計は結構高価なのですが、基本的には普通の計量器に、水中での重さを計れるような簡単な器具が取り付けてあるだけです。工夫次第では計量器さえあれば、自分で簡単な道具と組み合わせることで比重を割り出すこともできます。(この辺についてはそのうちまた取り上げたいと思います)

比重測定の弱点

比重測定は金の真贋、純度を見極める上では非常に重要な検査なのですが、弱点もあります。

まず中空のものは計れません。計っても非常に低い数値が出てしまいます。これは中空の部分も体積に含まれてしまうからです。

また、石が入っていたり、形状が複雑で隙間に水が入り込まないものも比重が小さい値で出てしまいます。このような場合には、経験による補正、または比重とは別の方法で判別していくしか方法がありません。(当店には、他店が断ったようなそういう品物が多く持ち込まれます^^;)

査定現場の実際

実は、数年前から、金製品なみの高い比重値を持つ偽物が出てきております。金やプラチナ以外にも高い比重値をもつ金属はあることはあるのですが、従来はそれが製品化されることはありませんでした。こういったものの登場で、比重値にウェイトを置く従来の判別法だけではなく、他の判別方法を併用したり、それこそ長年の経験に基づいて色々な角度から品物を調べることが我々の現場では必要になってきています。