今回は宝石の耐久性にもかかわるモース硬度についてです
モース硬度という言葉をご存知でしょうか。単に「硬度」なんて言ったりもします。モース硬度は宝石の耐久性や性質を考える上で重要な要素の1つです。
モース硬度は、ドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モースが19世紀に考案した、引っかき傷に対しての鉱物の硬さを表す指標です。基準となる鉱物が10種類定められており、これを1から10までの数値で表しています。ダイヤモンドは鉱物の中で最も固く、硬度10に定められているのは有名な話です。
モース硬度(MH)の一覧は次のようになります。
MH | 鉱物名 | HV |
---|---|---|
10 | ダイヤモンド | 7000 |
9 | コランダム (サファイア等) | 2100 |
8 | トパーズ | 1650 |
7 | 水晶 | 1100 |
6 | 長石 (ムーンストーン等) | 700 |
5 | アパタイト | 650 |
4 | フルオライト | 200 |
3 | カルサイト | 140 |
2 | タルク (石膏) | 60 |
1 | ジプサム (滑石) | 50 |
モース硬度の1~10までの数値は単に順位を表しているだけで、絶対的な硬さの度合いを表す数値ではありません。例えば、硬度10のダイヤモンドが硬度5のアパタイトの2倍硬いのかというとそうではありません。単に、順位が上のものが下のものに傷を付けることができるというだけです。
選んだ10種類の鉱物についても特に大きな意味があるわけではありません。当時、モースの身の回りにあった鉱物で重要視されていたものが選ばれただけであると思われます。
では、ダイヤモンドは実際にどれだけ硬いのかというと、ちょっと興味ありますよね。実は、これを数値化したものがあります。ビッカース硬度と呼ばれるものです。これはダイヤモンド圧子を使った測定法で、主に工業材料の硬さを表すときに使われるものです。上の表の右端(HV)に書いてある数値がその値です(数値には幅があるため概数で書いてあります)。
ダイヤモンドの硬度がいかに高いかがお分かりいただけるかと思います。2位のサファイアの3倍以上、先ほど比較に出した硬度5のアパタイトとは実に10倍以上の差があります。
では、硬度が高いと宝石にとってどのようなメリットがあるかということですが、まず第一のメリットはいうまでもなく傷に対する耐久性です。宝石が時間がたっても美しさを保つためには、傷が付かないことが絶対条件です。ダイヤモンドはダイヤモンドでしか傷がつけられませんから、使用していてダイヤ自身に傷が付くということはほとんどありません。
一方、硬度7の水晶(石英)の場合を考えると、これはもともと砂埃の中にも含まれる鉱物ですから、使用しているだけで自然とエッジが磨耗したり、表面に傷が付いたりする可能性もあるわけです。硬度7が宝石として要求される硬度の最低ラインと言われたりするのは、そのためです。硬度5のアパタイトという石は、コバルト・ブルーの非常にきれいな色をしていて、高価な宝石であるパライバ・トルマリンにもよく似ているのですが、硬度が5しかないため、宝石にはあまり使われません。もし、もう少し硬度が高ければ、ジュエリーとしてお目にかかる機会が格段に増えていたことでしょう。
ところで、硬度10を誇るダイヤモンドですが、引っかき傷に対しては無敵の強さを誇りますが、耐久性としては必ずしも無敵ではありません。矛盾するような話ですが、ダイヤモンドにはその結晶上の性質から特定の4方向に割れやすい性質があります。なので、ハンマーなどで上から一気に叩くと、粉々に割れてしまいます。ですから、強い力が一気に加わるような衝撃には、一応気をつける必要はあります。
このような割れに対する強さを「じん性」といいますが、宝石の中で特にじん性が高いのはひすいです。これは、ひすいが1つの結晶でできているのではなく、多数の結晶がからみあうようにしてできている鉱物だからです。モース硬度とじん性、この2つの要素が宝石の耐久性を考える上では重要です。
最後に主要宝石の硬度について、表にします。
MH | 宝石名 |
---|---|
10 | ダイヤモンド |
9 | サファイア、ルビー |
8.5 | アレキサンドライト、キャッツ・アイ |
8 | トパーズ |
7.5~8 | エメラルド、アクワマリン |
7~7.5 | ガーネット、トルマリン |
7 | アメジスト |
6.5~7 | ひすい |
5.5~6.5 | オパール |
5~6 | トルコ石 |
(※ ここでの小数点には量的な意味はありません。硬度8.5というのは、単に硬度8と9の間という意味合いです。)
オパールなどは硬度が低いため、取り扱いには十分注意が必要です。また、ここには載っていませんが、真珠やさんご、こはくなど有機宝石類(生物が起源の宝石)は、さらに硬度が低いですから、これも気を付ける必要があります。
ちなみにダイヤの類似品としてもっとも多く使用されるキュービック・ジルコニアは硬度8~8.5、10年ほど前から最もダイヤに近い人造石として造られ始めたモアッサナイトになると硬度9.5とサファイアを超える高い硬度を持っています。
今回は詳しく説明しませんが、硬度が高くなると、宝石をより平滑に、また正確に磨くことができ、ファセット・エッジもより鋭くすることができます。こうすることによって、宝石の光沢が格段に増しますから、宝石がより美しく見えるようになります。これは、ダイヤモンドの唯一無二の美しさを構成する要素の1つとなっており、硬度10のダイヤモンドの光沢は唯一「金剛光沢」と呼ばれております(ほとんどの石はガラス光沢)。残念なことに、技術の進歩により、モアッサナイトのような類似石の光沢まで進歩しているわけですが(^^;)。