今回は複雑時計の秘密に迫ります
永久カレンダーをご存知でしょうか。時計好きな方なら結構おなじみの言葉だったりします。通常、時計のカレンダーというのは31日周期となっているため、30日や28日などの小の月が終わるときには、自分で1日にあわせなければなりません。これを自動的に修正し、しかもうるう年にまで対応するカレンダー機構を永久カレンダーとよびます。永久カレンダーは機械式時計でなければ魅力がありません。永久カレンダーについて説明する前に、まず時計の種類について簡単に説明します。
現在の時計を大別すると機械式時計とクォーツ時計の2種類に分かれます。機械式時計は、ぜんまいのみの力で動き、機械的なパーツだけで精度を保つ時計のことです。圧倒的に長い歴史をもつのはこちらの方で、何世紀も前から様々な時計師が、より小さく、より高い精度を追求するなど創意工夫をこらしてきて今日に至っております。人気のある男性用の高級時計には現在でも機械式時計が採用されています。
一方のクォーツ時計の歴史はまだ50年程度と非常に浅いものです。クォーツ時計は日本のセイコー社が最初に発表しましたが、それからまたたく間に世界中に広まり、時計界の歴史、その後の未来を大きく変えることになりました。
クォーツ時計は、電池の力で駆動し、電子回路により精度を保ちます。この時、水晶発振子を用いるため、クォーツ(水晶)時計と呼ばれます。クォーツ時計の強みは圧倒的な精度です。これは機械式時計とは比べ物になりません。また非常に小さく作ることができますし、大量生産により安く作ることもできます。現在流通しているほとんどの時計はクォーツ時計といっていいでしょう。
最近では、太陽光による発電機構を持ち電池交換が不要なもの、標準電波を受信し自動的に時刻あわせを行うものなど、様々な種類がありますが、いずれもクォーツ時計です。
下の写真は機械式時計、クォーツ時計の内部の比較です。機械式時計の方が圧倒的に複雑なのが分かります。
左・機械式時計 / 右・クォーツ時計
さて、本題に入る前に1年の長さについてちょっと考えてみましょう。現在使われているグレゴリオ暦では、地球が太陽の周りを1周する時間を1年としています。これは365日ちょうどではなく、正確には約365.2422日ほどになります。したがって4年に一度うるう年を設け(4の倍数になる年、次は2016年)、端数分を調整しているわけです。
ところが端数は厳密に見てみると0.2422日ですから、4年に1回、1日増やしてしまうと、ちょっと増やしすぎる計算になります。なので、100年に1度(次は2,100年にあたります)うるう年を1回お休みにする規則を設けています。そしてさらに微調整するために、400年に1度(次は2,400年)今度はうるう年を復活させるルールも設けています。2000年は4の倍数のうるう年でしたが、実はただのうるう年ではなく100年に一度、さらに400年に一度の規則が適用されたうるう年であったのです。
さて、いよいよ本題に入ります。機械式時計には3大複雑機構というものがありますが、永久カレンダーはその機構の中の1つです。その基本的な部分は1795年に天才時計師アブラアン・ルイ・ブレゲが発明したといわれています。
永久カレンダーでは、4年に1度のうるう年の調整までなされればよしとします。100年に1度、400年に1度という例外規則を考えなければいけないほど、時計の持ち主は長生きできないわけですから。
それでも大変です。4年もの間、毎月カレンダー調整を自動的に行う機構を機械的な部品だけで実現しなければならないわけです。これを実現するために、永久カレンダーの時計には、4年をかけて1周する歯車が搭載されています。そして、その歯車には4年間の大の月、小の月を記録した刻みがあります。48ヶ月の間に28、29、30、31日と4種類の月の長さが存在するため、4種類の深さの刻みがあります。この刻みの深さの違いで制御するレバーの動きが変わり、きちんと翌日を一日(ついたち)にすることができるようになるわけです。
この機構は大変複雑なものですから、技術のある時計師しかメンテナンスができません。メンテナンスには通常よりも時間とお金がかかります。それでも18世紀に考え出されたこの機構を搭載した時計が現在も発売され、またそういう時計を持ちたいという方も多いというのは、まさに機械時計だけが持つメカ的な魅力なのでしょうね。より複雑なもの作りに挑戦するという技術者の気概が感じられます。いうまでもありませんが、クォーツ式の時計であれば永久時計は簡単に実現できます。
現在、永久カレンダーを搭載した時計は20社以上で発売されているようです。中でも有名なのは、IWCのダヴィンチです。この時計には西暦を表示する部分もあり、2,100年までは、理論上カレンダー調整が不要です(もちろんその間にメンテナンスが必要になってくるでしょう)。また生みの親ともいえる天才時計師の名を冠したブレゲ社のものなどもあります。
左・IWC ダヴィンチ / 右・ブレゲ クラシック