機械式時計の3大複雑機構の1つ、ミニッツ・リピーター

熊谷質店

今回はその魅力に迫ります

第14回 ミニッツ・リピーター

永久カレンダー、トゥールビヨンときて、いよいよ機械式時計の三大複雑機構も残り1つになりました。今回は、最後の1つ、ミニッツ・リピーターについてのお話です。

ミニッツ・リピーターの時計は、これまで紹介した腕時計の複雑機構の中でも、もっとも遊び心にあふれた優雅な機構といえるのではないでしょうか。価格もトゥールビヨンのさらに上を行くものが多いです。

ミニッツ・リピーターとは

まず、ミニッツ・リピーターを搭載した時計を見てみましょう。特に目立つところはありませんが、8時~9時の位置に普通の時計にはないレバーがあります。このレバーこそがミニッツ・リピーターを示す大きな特徴です。

ブレゲ社製ダニエル・ロート社製
左・ブレゲ社製 / 右・ダニエル・ロート社製

ミニッツ・リピーターは、現在の時刻を音で知らせる機構です。音は、腕時計内部に納められた小さなゴングとハンマーによって打ち鳴らされます。例えば、今が、3時37分だとしましょう。今の時刻を知りたいと思ったとき、例のレバーをスライドさせ、ミニッツ・リピーターを作動させます。そうすると、「チン」「チン」「チン」とまず3回ゴングが鳴ります。その後音色をやや変えて15分で1回鳴るゴングが「チントン」「チントン」と2回鳴ります。これで3時30分。そして最後に「チン」「チン」「チン」・・・のゴングが7回鳴ります。こんな感じでその時の時刻を表します。

こう説明だけすると、簡単なように思われますが、機械式腕時計のあの大きさの中にこの機構を搭載するのにはきわめて精巧な技術が必要になります。今の時刻をすぐに読み取れるようにしておき、その時刻によってゴングの鳴らし方を決定し、実際にそれを鳴らす。電子回路で行えばなんてことない作業なのでしょうが、これをぜんまいじかけの機械で行うわけですから大変です。ちなみにゴングと書きましたが、これは普通、鐘状のものではなく、ケース外周部にスプリング状の形態で収納されております。この辺の仕組みを考えたのも、かの天才時計師アブラアン・ルイ・ブレゲであり、これにより薄型のケースにもミニッツ・リピーターの機構を搭載することが可能になりました。

ミニッツ・リピーターの実際

ミニッツ・リピーターの元々の目的は、暗闇の中でも音で時刻を知ることができるということでした。現在のように電気を普通に使っている時代ではなかったので、このことはとても重要だったわけです。しかし、今は、夜も明るい上に、蓄光性能の高い夜光塗料も開発され、それが針や文字盤に使われておりますから、本来の用途での有用性はあまりないように思われます。しかし、ミニッツ・リピーターの打ち鳴らす優雅なゴングの音は、機械式時計ファンにとっては究極の音色ともいえます。そしてその音はメーカーや型式によってそれぞれ趣きが異なる繊細なものです。おそらく一生に一度でもミニッツ・リピーターの時計を付けて、その音を聞いてみたいと思う方は多いのではないでしょうか。

ちなみに、ミニッツ・リピーターにさらに他の複雑機構を追加した超複雑時計もあります。一流時計メーカーは様々な工夫をこらし、その技術に磨きをかけ、毎年バーゼルやジュネーブ・サロンでこういった新たな複雑時計を発表しております。下の時計は2011年発表のパテックの時計で、ミニッツ・リピーターに加え、瞬間日送り式永久カレンダー、ワンプッシュボタンクロノを搭載した超複雑時計(グランド・コンプリケーション)です。

パテック
パテック・フィリップ社製、グランド・コンプリケーション