ヒスイの歴史は以外にも日本が古かったりします
宝石というと、普通、ダイヤやルビー、サファイアなど透明な宝石を想像する場合が多いかと思います。実際、透明宝石の方が照りもよく、輝きも高い場合が多いです。これが半透明になってしまうと、たとえ色がきれいでも、何となくどこにでもありそうな石に見えてしまうかもしれません(^^;)。ですが、半透明石ならではの上質な美しさというものも存在します。
今回は半透明石の代表として、東洋を代表する宝石でもある、ヒスイについてのお話をします。上質のヒスイの緑色というのは、他の宝石にはない独特の美しさがあります。近年では、中国からの需要の高まりもあって、最高品質のものについては、宝石のオークションでも、びっくりするぐらいの高値で取引されることもあります。
はじめに、ヒスイに関しては1つ注意が必要です。単に「ヒスイ(Jade)」といった場合、広い意味では2種類の鉱物がそれに該当します。これらはそれぞれジェダイト、ネフライトといいます。この2種の中で、美しさ、耐久性、希少性は全てジェダイトの方に軍配が上がり、普通宝石の世界で「ヒスイ」といった場合にはこのジェダイトの方を指します。ただし、ネフライトとの区別のためにジェダイトの方は「本ヒスイ」などと呼ばれることもあります。ですから単に「ヒスイ」だけの呼称の場合あいまいなので、ご購入の際には必ずそれを確かめることをお勧めします。宝石レベルで見たときに、価値があるのはジェダイトの方だけですので。。。
ちなみに、和名では、ジェダイトを硬玉、ネフライトを軟玉と呼びます。名前の通りジェダイトの方が硬度も高いです。
中国ではネフライトは「玉」と呼ばれ、かつてはその強靭な性質から石器として用いられたりもしていましたが、その後は装飾品、彫刻品の素材としてとても大切にされてきました。ただしネフライトは世界中で広く産出するため希少性はそれほどなく、ジェダイトが取引されるようになってからは宝石としての主役の座はジェダイトに移りました。ジェダイトは、日本ではすでに縄文時代には勾玉(まがたま)として利用されており、その歴史は世界で最も古いのではないかともいわれております。現在でも新潟県糸魚川市周辺では採掘することが可能ですが、残念ながら宝石品質のものは産出しません。宝石品質のものについては、現在商業レベルで採掘できるのは、ミャンマー(昔のビルマ)のみのようです。
ところで琅玕(ロウカン)という言葉をご存知でしょうか。元々は中国で「青々とした美しい竹」を意味する言葉だそうですが、現在この言葉は透明度の高い最高品質のヒスイに対して用いられる言葉です。下に写真を載せます。左側がよくある勾玉、右側がロウカンのジュエリーです。どちらも同じヒスイには見えないですよね(^^;)。ヒスイというのは元々繊維状の結晶が結合してできたものですから、普通、左側の写真のような見え方のものが一般的です。色も緑と決まっているわけではなく、ベースはあくまで白で、それに特定の不純物元素が混じることにより緑や、紫、オレンジ色などの色がつきます。この中で均一な濃い緑の色調を持つ繊維状の結晶が集まり、かつ全体として透明度を失わないほど非常に密に結びついたもの、それがロウカンですから、産出量は少なく、非常に高値で取引されているわけです。
さて、唐突ですが、下の写真、緑色の半透明石のものを集めてみました。これらはヒスイとその類似石としてよく見かけるものです。さて本物はどれでしょう?
まず、上段左から2番目の石はきらきらと光る鉱物が石中に見られ、他の石とはちょっと様相が違います。これは「インドひすい」という名前で売られているもので、正式名称をグリーン・アベンチュリン・クォーツといいます。クォーツというだけあって水晶の仲間であり、大量に採れるため値段は高くはありません。
上段4番目は青みが強くて明らかに色が違いますね(^^;)これはアマゾナイトと呼ばれる石で、アマゾン・ジェードなどの名称で売られることもあります。これも高価なものではありません。
それ以外の石は、写真で見分けるのはちょっと難しいですね。答えを言うと、上段左から、ハイドロ・グリーン・グロッシュラー・ガーネット、グリーン・アベンチュリン・クォーツ、クリソプレーズ、アマゾナイト。下段左から、ヒスイ(ジェダイト)、着色クォーツァイト、失透ガラス、ネフライトとなります。
この中で特に注意が必要なのは、上段のクリソプレーズ、下段の着色クォーツァイト、ネフライトあたりでしょうか。この3種はヒスイの偽物として宝石に使われることが時々あります。3種とも単体の宝石としては価値はほとんどないものなのですが、見た目はヒスイによく似ています。特に色もよく、透明度の高い着色クォーツァイトなどは上質のヒスイにかなり似ていますので、素人が肉眼で見て区別するのは不可能だと思います。外国などでよく売られているようですので、ご購入の際には注意したいところです。
今回取り上げた6種類の石の特性値は次のようになります。
宝石名 | 屈折率 | 比重 | 特徴 |
---|---|---|---|
ジェダイト (ヒスイ) | 1.66 | 3.24~ 3.43 | 繊維状組織 |
ハイドロ・グリーン グロッシュラー・ガーネット | 1.72~ 1.74 | 3.36~ 3.55 | 黒色インクルージョン |
グリーン アベンチュリン・クォーツ | 1.54~ 1.55 | 2.65 | クロム・マイカの内包により石の内部がきらきらと光る |
クリソプレーズ | 1.53~ 1.54 | 2.58~ 2.62 | ヒスイに比べ一様でやや淡い色調と筋状の色ヌケ |
アマゾナイト | 1.53~ 1.54 | 2.58~ 2.62 | 特有の層状構造 |
染色クォーツァイト | 1.54~ 1.55 | 2.65 | 粒界に沿った色素の集中 |
失透ガラス | 1.52~ 1.53 | 2.70 | 特有の放射状内包物 |
ネフライト | 1.61 | 2.95~ 3.10 | 繊維状組織だが、ヒスイに比べて色が暗い場合が多い |
この中で特性値がヒスイに近いのは、ネフライトとハイドロ・グリーン・グロッシュラー・ガーネットだと思います。ただし、これらの石も屈折率がヒスイと0.05ぐらいは差があるので、卓上の屈折計によって十分判定ができます。(当店でもヒスイの判定をするときには屈折計を使わせていただくことがあります)
また、ヒスイは繊維状の結晶がからみつくような構造をしておりますから、ルーペなど見た目で判断する場合には、裏側から石に光を透過させて、繊維状の構造を確認することがもっとも有効かと思います。
さて、ヒスイの類似石について見て来ましたが、本物のヒスイでも人的処理が施されている場合があります。実はこれが一番やっかいで、処理により色、テリなどが改善されたヒスイには所詮恒久性、耐久性はなく、希少性もないので、評価は著しく下がります。
処理には、主に白色のヒスイを緑色に染色する昔ながらの方法と、無色または有色の樹脂を石中に浸透させる方法とがあります。後者の樹脂を浸透させる方法は1990年頃から宝石市場に現れて大きな問題を起こしました。この処理をされた石は非常にもろくなりますが、一見琅玕と呼ばれる最高級のヒスイのような透明度を持つ場合があるからです。
またやっかいなことに、昔ながらの染色の方法は拡大検査などの一般的な器具を用いた鑑別法で看破することが可能ですが、樹脂を浸透させた方法の場合には大手の鑑別機関にしかない分光高度計という機械を使わないと完全には分かりません。
逆にいえば、今ヒスイの鑑別を鑑別機関に依頼すると、この検査を必ず行うため、他の色石よりも検査料が高くなります(^^;)。そのぐらい見分けが難しいわけですね。そのような理由もあり、ヒスイの場合には、鑑別機関できちんと検査を受けたお墨付き(鑑別書)があるとないとでは評価が大きく変わってきます。ですから、上質のヒスイをご購入する際には必ず信頼のある鑑定機関の鑑別書が付いていて、処理がされていないことを確認する必要があります。もちろん、信頼のあるお店を選ぶことも重要です。