昼と夜で色が変わる神秘の宝石

熊谷質店

今回はアレキサンドライトについてのお話です

第20回 アレキサンドライトの秘密

アレキサンドライトという宝石をご存知でしょうか。この宝石は、昼と夜で色が変わる神秘の宝石として知られています。確かにアレキサンドライトは、太陽光や蛍光灯の下では緑色をしていますが、白熱灯の下では赤色に変化します。いったいどうしてこのようなことが起こるのでしょうか。今回は、その秘密に迫ります。

アレキサンドライト
アレキサンドライト

光の波長と色

この秘密について説明する前に、そもそも色とは何であるかを説明しなければなりません。色とは、波長の違う光に対する人間の目の知覚の違いを表したものです。この世界には様々な波長の光(電磁波)が飛び交っているわけですが、人間の目が感知できる波長の範囲は400nm~700nmほどの範囲だけです。これを可視光線といいます。

可視光線の中で一番波長の長い光を人間の目は「赤」と感知します。以降、順に橙(オレンジ)、黄、緑、青、紫と波長が短くなるにつれて人間の目はこれをそれぞれの色として感知していくわけです。ちなみに、赤よりも波長の長い光は人間の目には感知できませんが、暗闇で映像を撮影するのによく使われます。これは、赤の外側の光ということで、赤外線と呼ばれているものですね。逆に紫よりも波長が短い光については、紫外線と呼ばれるわけです。波長が短いほど光のエネルギーは高くなるため、紫外線は肌に影響を与えたりもします。

光の種類

光の選択吸収

我々が太古の昔から恩恵を受けている太陽の光には、これらの様々な波長の光がバランスよく混合しています。なので、太陽の光については、特に色を感じることはありません。ところで我々の身の回りの物体に、このバランスの良い光が当たった場合どうなるでしょう。物体は光を完全に反射するわけではありません。物体によってあらかじめ定まった量の光は、その物体に吸収され、残りの部分を反射します。そして、その残りの光の混合成分を我々はその物体の「色」として感じるわけです。このように、ある物体が特定の色(波長)の光を吸収することを「光の選択吸収」といいます。

選択吸収の仕方はその物体によりそれぞれ違います。つまり、あるものは波長の長い光(赤)を多く吸収し、あるものは波長の短めの光(青)を多く吸収したりします。赤を多く吸収した物体の場合、その分反射する残りの光の中に赤の成分が少なくなるわけですから、赤の補色(反対の色相)、すなわち緑色に見えることになります。同じ理屈で、青を多く吸収した物体は、青の補色である黄色に見えるわけです。

補色

実際の選択吸収はもう少し複雑に行われますが、物体に色がついて見えるおおまかな理由は以上のとおりです。余談になりますが、トンネルの中などに使われる黄色いランプ(ナトリウムランプ)がありますが、あのランプの光の中には黄色の成分しか含まれていません。なので、トンネルの中で車内を見ると、黄色の濃淡があるだけで、他の色はいっさい感じられません。このランプは効率・視認性が良く、トンネル内の光源として最も適しているライトとして採用されているそうです。

スペクトル

光の選択吸収がどのように行われているかを見るために、光のスペクトルを見るという方法があります。スペクトルとは、プリズムなどの作用により色毎に分けられた光の帯のことです(一番最初の図にあるもの)。スペクトルを見ると、同じように見える赤の色でもそれぞれ異なる光の選択吸収が行われていることが視覚的に分かります。

例えば、赤い宝石の代表ともいえるルビーのスペクトルと、同じ赤色のガーネットのスペクトルを比べてみます。

ルビーのスペクトル ガーネットのスペクトル
ルビー(左) / ガーネット(右)

ルビーのスペクトルで目立つのは、中央部分(緑色の部分)に影のようにある大きな吸収バンドです。ルビーは赤の補色である緑色(赤の発色の邪魔をする)を幅広く吸収しています。一方のガーネットも緑色の範囲にいくつかの吸収バンドがあり緑をカットしてはいますが、ルビーほどの強い吸収はありません。したがって、ルビーに比べると、ガーネットはやや濁ったような暗い赤色の発色になるわけです。

ルビーの発色を鮮やかにしている理由は実はもう一つあります。それは、ルビー自身が発している蛍光によるものです。ルビーは選択吸収以外に、自ら赤い蛍光色も発光しています。上のスペクトル上の左端に近い部分にある赤い線がこの蛍光にあたるものです。

アレキサンドライトのスペクトル

前置きが長くなりました。いよいよ今回の本題、アレキサンドライトのスペクトルを見てみることにしましょう。

アレキサンドライトのスペクトル
アレキサンドライト

正直、あまりつかみどころがないように見えます(^^;)。ただ、黄緑色~黄色~橙色にかけて幅広い吸収バンドがあります。この位置はルビーの吸収バンドよりも弱く、やや長波長側(赤側)によっていて、その分緑色部分の多くが吸収されずに残っています。つまり、ルビーとは違って、緑色成分と赤色成分の両方がバランスよく残っているのがお分かりいただけると思います。

緑色と赤色のバランスが極限まで取れているとどうなるのでしょうか。補色の関係にあるこの2色の間には「中間色」がありません。何らかの要因を受けることにより、どちらかに転ぶことになります。アレキサンドライトはまさにそういう宝石なのです。結局、どちらに転ぶかは宝石にあたる光の種類に委ねられることになります。

アレキサンドライトは太陽光、蛍光灯など、比較的青~緑の成分が強い光に対しては、その影響を受け、緑色になります。白熱灯のような黄~赤の成分が強い光に対しては、その影響を受け、赤色になります。光源の色の微妙な違いが、神秘の宝石・アレキサンドライトの色の変化を作り出しているわけですね。

その他の変色性をもつ石

アレキサンドライトのように変色性をもつ石は、自然界では非常に稀なのですが、他の種類の石にも時々見られることがあります。ガーネットやサファイアなどがそうです。ただし、一般に宝石としての価値を考えた場合、アレキサンドライト以外の場合はあまり評価されません。ちなみに、昔、海外で「アレキサンドライト」としてお土産で売られた変色効果のある石を今でも時々見かけますが、これらは変色効果を持つ合成サファイアです。本物のアレキに比べて色が青っぽくて変な色をしていますが、色はよく変わります(^^;)

本物のアレキサンドライトは高価な分、合成宝石も数多く作られておりますから、ご購入の際には、必ず信頼のおける鑑別機関が発行する鑑別書が付いているものをお求めください。